ベネフィット

ベネフィットとブランドの関係
ベネフィットの発見 重視・満足分析
ベネフィットとシーンの開発
100年使われているコピー
小さいことのベネフィット
ベネフィットと価値
ブランドは価値でつくる
ブランドになったノーブランド
ベネフィットの高度化

ターゲットもシーンも、ベネフィットに行き着くための切り口。新たなターゲットを見つけ出すのも、さまざまなシーンから特定のシーンに絞り込むのも、もともとの目的は、他とは違うベネフィットによって製品の差別化を行うためである。

新たなターゲットを見つけだしても、そのターゲットがこれまでの商品の提供しているベネフィットに満足していたら、新製品の開発には結びつけにくい。ターゲットやシーンを見つけ出すのは、ターゲットやシーンに応じた新たなベネフィットが求められているはずだ、という期待からである。では、ベネフィットとは何か。次のベネフィットをいかにして見つけだすのか。

Benefit1 ベネフィットとブランドの関係

事例 歯磨きと風邪薬のベネフィット

ベネフィットとは何か。benefitは、「利益、恩恵、恩典」などと訳されるが、マーケティングでのベネフィットは、ユーザー・顧客が得られるよいこと、うれしいこと、満足していることである。

ベネフィットを考えるのにわかりやすい事例に、歯磨きペーストがある。歯磨きペーストはもっぱらベネフィットに着目した製品開発を行い、ベネフィット・セグメンテーションにもとづいたブランド展開を行っている。たとえば、ライオンの歯磨きペーストのブランドとベネフィットは次のようになる。

  • 白い歯、健康な歯 → ホワイト&ホワイトライオン
  • 口臭予防、爽快感 → エチケットライオン
  • 虫歯の発生と進行の予防 → キシリデント・ライオン
  • 歯のチカラを育てる → クリニカ
  • 歯茎を引き締め、歯槽膿漏を防ぐ → デンターシステマ
  • タバコのヤニの除去 → ザクト・ライオン

歯磨きペーストだけでなく、洗濯用洗剤やシャンプーなどのトイレタリー製品は、ベネフィットをブランドにして、ひとつの企業が同じような価格の複数のブランドを展開することが多い。

それにしても歯磨きペーストの商品コンセプトは、ターゲットやシーンという切り口があまりにも希薄で、ベネフィットに偏りすぎている。子ども向けはあるが、女性や年配者、インプラントやブリッジなどの人工の歯を使っている人もいるが、こうしたターゲットからの製品開発は少ない。シーンだって旅行はあるが、朝、よる、昼食後のオフィイスなど、歯磨きシーンによる切り口からの製品開発も少ない。こうしたことから歯磨きペースは、シャンプーなどと違って、ただひとつのモノが家族全員に使われ続けている原因になっているように思う。極端にいうと、歯磨きペーストは、今も家族全員向けで全シーン対応である。

ベネフィットをブランドにしないで、ひとつのブランドでベネフィットが異なる複数の製品をもつのが、風邪薬のベンザブロックである。武田薬品のベンザブロックは、現在、ベネフィットが異なる次の3つの製品を販売している。

ベンザブロックS 鼻水・鼻づまり 黄色のベンザ
ベンザブロックL のどの痛み、発熱 銀のベンザ
ベンザブロックIP 発熱、さむけ、頭痛 青のベンザ

風邪の症状にはパターンがある。薬局に行って薬を選ぶとき、お店の人に「症状は?」と聞かれ、「それならこれがいいですよ」と薬を薦められることがよくあるように、発熱、のど、鼻のすべてに症状が同時にあらわれることは滅多にない。だが、かつてのベンザブロックはすべての症状に合う「総合風邪薬」だったのである。ベンザブロックは「総合風邪薬」というポジションを捨て、複数の製品を揃えることで、風邪に対するほとんどのベネフィット・ニーズをカバーしている。複数ベネフィットを複数の製品でカバーし、競合企業が占有する隙間を作らない。ベンザブロックのベネフィット製品展開はマーケットリーダー企業がとるべき効果的な戦略である。

Benefit2 ベネフィットの発見 重視・満足分析

事例 ビデオテープのベネフィットの発見
定量調査からベネフィットを導き出す方法は2つある。時系列分析と重視・満足分析である。

時系列分析では、ベネフィットに対するユーザーの重視度と使用ブランドに対する満足度の変化をみる。そして、重視度が上がっていながら満足度が上がっていない、重視・満足ギャップが拡大しているベネフィットを見つけ出せれば、それが次のベネフィットになる。。

時系列分析は、調査を積み重ねることではじめて分析が可能となるが、重視・満足分析を行うなら、1回の調査でベネフィットを見つけだすことができる。ユーザーに重視点と満足点を質問し、その結果をX軸とY軸にプロットする。質問する重視点と満足点は同じ項目であり、風邪薬なら、「熱をおさえる」「鼻水をとめる」「のどの痛みをやわらげる」「咳をおさえる」などで、これらの項目はそのままベネフィットになる。

主な項目がY=Xの線上に並ぶなら、重視するベネフィットは重視に見合って満足していることになり、ユーザーにとって満足度が高いブランドになる。この場合は、重視も満足も高いベネフィットがこのブランドの最大のベネフィットであり、製品改善の必要はなく、コミュニケーション戦略などで、このベネフィットに絞り込んだ訴求をしていくことが求められる。逆に、重視は高いが重視の割に満足度が低いベネフィットがあったら、ユーザーはそのベネフィットに潜在的に物足りなさを感じていることになる。ユーザーにとって満足度があまり高くないブランドであり、満足度が低いベネフィットの改善が課題になる。

1980年代後半、ビデオデッキの普及率が50%前後の頃のビデオテープ市場は、TDK、マクセル、ソニーなどが激しい競争を展開していた。そのなかで、住友スリーエムのスコッチは「EG」という新製品を発売し、上位企業に並ぶシェアを獲得することになるが、その時、ベネフィットは、消費者調査の結果から、次のように決定している。

ヘビーユーザーについて重視・満足分析を行い、重視しているが、現在使用しているブランドでは満足していないベネフィットとして「輪郭がくっきり」「画像がシャープ」があった。当時、各社のビデオテープは「色が自然」「赤がきれい」など、色に関わる訴求で差別性を競っていた。もちろんヘビーユーザーも「色が自然」を重視していたが、「色が自然」については満足度も高く、色の自然さを競う段階は過ぎようとしていた。そうしたなかで、画像・輪郭のシャープさについては、色には及ばないがかなり重視され、満足度は非常に低く、重視・満足ギャップは大きかった。シャープさは色の自然さの次に来るベネフィットである条件を揃えていた。

スコッチEGは、シャープさを強化した製品として開発される(1985年3月)。CMは当時中学生だった後藤久美子を起用、コピーは「シャープネスに美熱」、シャープさをモノクロ感が強い映像で表現したものだった。この年の冬、スコッチのマーケット・シェアは初めてTDK、マクセル、ソニーに並ぶ。(日本能率協会『新製品開発事例集』)

Benefit3 ベネフィットとシーンの開発

事例 宅急便のベネフィット開発とシーン開発
宅急便の歴史をマーケティングという側面から振り返ると、ベネフィット開発とシーン開発の歴史として捉えることができる。

まず宅急便という新たな事業分野の創造。1976年ヤマト運輸が宅急便を始める以前は、個人が荷物を送り手段は郵便小包と鉄道小荷物だけ。サービス開始時の宅急便が郵便小包と比べたベネフィットは、次の3つの「便利さ」であった。

荷造りが簡単 包装は自由、紐賭けや荷札なし
翌日配達 郵便小包は4、5日
集荷

「便利な」宅急便が現れて、これまでなら行わなかったことを行うようになる。郵便小包の不便さは、「送りたい」という需要を抑えつけていたのだ。消費者は宅急便が出現して初めて郵便小包の不便さを知り、宅急便の便利さを知る。宅急便が大きく成長したのは、郵便小包の市場を奪ったからではなく、新たな市場を創ったからであった。

その後、宅急便は主にベネフィット開発とシーン開発によって、扱い個数を飛躍的に増やし、成長をとげていく。ベネフィット開発は「便利さ」の開発である。

1988年 夜間お届けサービス
1992年 タイムサービス
1896年 365日営業
1998年 時間帯お届けサービス

使用シーンの開発は、これまで送れなかったもモノを送れるようにすることであり、規格外で人が持ち運んだり、温度管理ができず送れなかったモノを送れるようにした。

1984年 スキー宅急便
1985年 ゴルフ宅急便
1986年 コレクトサービス
1987年 クール宅急便
1997年 クロネコメール便
1987年 クール宅急便
2000年 パソコン宅急便

このように宅急便の商品開発は、ベネフィットとシーンの開発であった。

Benefit4 100年使われているコピー

事例 アイボリー石鹸 純度99.44%
純度99.44%」。P&Gの始まりのブランドであるアイボリーは、広告史で最も有名なこのコピーによって他の石鹸とは異なるブランドとなる。

19世紀末のアメリカ、石鹸産業は300余りの中小企業があり、各メーカーの製造した石鹸を少数の問屋が仕入れ、多くの小売店で売られていた。この問屋支配型市場では、消費者と関係をもつのは小売店だけ。商品にはメーカー名やブランド名はなく、石鹸はむき出しの細長い棒状で小売店に置かれ、必要な量が切り取られて売られていた。量り売り、切り売りの世界である。消費者にはメーカーやブランドを知るすべもなく、メーカーには無関心、信頼できる店の石鹸を買っていたのである。

こうしたなかで、石鹸にマークや名称をつけたり、包装を早くから行ったのがプロクター&ギャンブルである。1882年、アイボリーはこれまでの細長い棒状とは違い、真ん中に刻み目をつけそこに糸を巻きつけて切ると2つの石鹸ができるという形状で発売される。もちろん石鹸にはアイボリーという名前が彫りこまれていた。2つに切り離せる形状と彫りこまれた名前から、消費者はアイボリーを識別する。

アイボリーは水に浮く軽い石鹸だった。製造の担当者が機械をとめないで昼食に出かけたため、偶然に水に浮く石鹸ができたのだが、P&Gはこの水に浮く石鹸を本格的に製造する。

当時、水に浮くという特性は、川の水が黒く濁るときには落としても探しやすいなどのベネフィットをもっていた。だがP&Gは、探しやすいという実際的なベネフィットではなく、水に浮くことを石鹸の純粋さに結びつける。

アイボリーの純粋さの証明のため、エールやプリンストンなどの大学の研究室に分析を依頼したが、回答は期限までに届かない。そこで自分で分析した結果をもとに、1882年12月21日、「純度99.44%」「水に浮く」というコピーの広告を新聞『インデペンデント』に載せるのだった。水に浮くのは純粋だから、純粋だと水に浮く、というイメージからアイボリーは品質がよいという理解の浸透をはかるのである。「純度99.44%」、100年以上たった今もアイボリーのコピーとして使われている。

同じ頃のイギリス。1884年、リーバ・ブラザーズは「サンライト」という石鹸を発売する。泡立ちがよいようにヤシ油を多めに入れた石鹸で、多くの石鹸が小売店で切り売りさている時、模造の羊皮紙で個別に包装された石鹸だった。マークや名称、パッケージによって消費者にメーカーやブランドを伝え、他の石鹸との違いを意識させる。P&Gもリーバ・ブラザーズも、消費者にブランドを選択してもらうことをいち早く志向する。問屋や小売店に営業する販売志向ではなく、ブランドを通じて消費者に働きかける顧客志向のメーカーになることで、群小の石鹸企業から抜け出し大企業へと成長する軌道に乗る。

Benefit5 小さいことのベネフィット

小さいからバッグに入れてもかさばらない ハンディカム55

「小さい」ということは属性、属性とベネフィットは違う。「小さな」ことのベネフィットは何か。「小さい」こといがユーザーにどういう恩恵を与えるか、それがベネフィットである。「小さい携帯電話」なら、小さいので「ポケットに入れても気にならない」、「片手でもらくらく操作できる」など、同じ小ささでもターゲットやシーンによって異なったベネフィットになる。ひとつの製品属性は、いくつかのベネフィットの可能性をもつのである。

これまでに比べて圧倒的に「小さい」「軽い」という技術の成果を「運び運びしやすい」というベネフィットにしたのが、ソニーのビデオカメラの「ハンディカム55」である。

ビデオカメラのターゲットは、今も幼児を持つ親。幼稚園や小学校の入学式、運動会、学芸会は、まるでビデオカメラの発表会のようである。子どもを撮影する親以外で、新たなユーザーはいないのか、ビデオカメラのリーダー企業であったソニーは、技術開発された小型カメラを新たなユーザーの開発に結びつけようとした。

日本経済はバブルのピークの時期、OLを中心に海外旅行熱もピークを迎えていた。ターゲットにしたのはOL。利用シーンは海外旅行で、べネフィットは海外旅行にも「持ち運びやすい」である。「小さい」という属性を「バッグに入れてもかさばらない」「持ち運びやすい」というベネフィットにしたのである。1989年に発売されたハンディカム55は、浅野温子を起用した『パスポートサイズ』の予告CMで話題となり、発売後生産が追いつかない時期が続く。

Benefit6 ベネフィットと価値

ベネフィットと価値をつなぐ手法 ラダリング・メソッド

属性からいくつかのベネフィットが生まれるが、ベネフィットは心理的な満足感でもある消費者価値につながっていく。この消費者価値へと、ベネフィット、製品属性から関連づける手法が『ラダリング・メソッド』である。ひとつの属性が複数のベネフィットにつながるように、ひとつのベネフィットは複数の消費者価値に結びつくなど、3つのレベルの複雑なつながりを捉えるのである。(「広告メッセージ開発の新手法 ※」『ブレーン』1991年12月号)

大橋 正房
(株)ビ一・エム・エフティー代表

言い古されたことだが、「リサーチとクリエイティブは水と油の関係にあり」、おたがいに反発の歴史があるようだが、水と油の臨界面ほど興味深い領域はない。「素晴らしい新製品はリサーチからは生まれない」とか「面白いCMをつくるためにデータは役に立たない」ということが言われたりすると、リサーチの側の者として「そうだけど、しかし、……」と臨界面に対して意欲を持つ破目になる。予定調和な楽観論だが、徹底した分析理性と素晴らしい創造的感性は意外と背中合わせの隣接した地平にいるものであるとも思う。

さて、広告表現というクリエイティブな領域にマーケテイングを生かそうとする新しい試みとして、電通ヤング・アンド・ルビカムは、広告のメッセージの開発のためのマーケティング手法をつくりあげた。「ラダリング・メソッド-タイブ1」である。ここでは、この「ラダリング・メソッド-タイブ1」を紹介し、そのうえで、この手法の可能性を検討してみたい。

4つのレベルを結びつける

ラダリングとは「はしご」を意味するLadderをもとにした言葉で、商品と消費者のあいだに「はしどをかける」という意味が込められている。

では、どんなはしごなのか。このはしごには4つの段階があり、商品の側から順に述べると次のようになる。

①商品属性
(Attributes)
商品・サービスの物理的または客観的な特徴で、消費者が直接知覚できるもの。
②客観的ベネフィット
(Objective Benefits)
商品属性から直接引き起こされる客観的便益。
③主観的ベネフィット
(Subjective Benefits)
心理的な領域に属し、本人の感情・感受性によって主観的にとらえられる便益。
④消費者価値
(Consumer Values)
OB(客観的ベネフィット)やSB(主観的ベネフィット)が本人にとってどの程度重要であるかを決定す恵右判断の基準。

この4つの段階の、商品属性(A)から消費者価値(V)までは、どの商品やどの銘柄も持っているはずであり、この4つのレベルの関連性を調査に基づいて分析するのがラダリング・メソッド-タイブ1である。

私たちはふだん、ベネフィットとか商品属性、あるいは消費者価値ということの概念をあいまいなままに使っていることが多いが、ラグリングの結果を見ると、商品属性から消費者価値までの4つのレベルを明確に区別することによって、商品の価値とかベネフィットあるいは商品特性と言われるものを系統的に考えることができる。では、4つのレベルはどうちがうか。わかりやすい事例が挙げられているので、そのまま紹介しておこう。ゴルフクラブの場合は次のようになる。

①商品属性
(A)
スイートスポットがいままでの2倍大きい。
②客観的ベネフィット
(OB)
曲がりにくく距離が伸びる。
③主観的ベネフィット
(SB)
スコアが良くなって100を切れるかもしれない。
④消費者価値
(V)
いままで負けていた仲間に勝って優越感にひたれる。

これはスイートスポットが2倍のゴルフクラブの例であるが、ここで商品属性(A)、客観的ベネフィット(OB)、主観的べネフイット(SB)、消費者価値(V)を理解するために、ゴルフクラブの事例にならって自分白身に応用問題を課してみることにする。

たとえば、眼薬の“バイシン”。

A 充血をとる

OB 眼の白い部分がきれいになる

SB 相手に認められる

V 女王様気分になれる

“バイシン”はあなたを女王様にする限薬ということになるが、こうしたラダーが存在するかどうかは、あくまで仮説。また、たとえば、大塚製薬のカルシウムがはいったウエハースの場合、母親にとって次のようなラダーがあるかもしれない。

A カルシウムがいっぱい

OB ウエハースを食べてカルシウムがとれる

SB コーンフレークより喜んで子供が栄養がある朝食をとる

V 子供の健康に配慮する母親としての満足感が得られる

さて、「スイートスポットが2倍」のクラブや“バイシン”、ウエハースにはもちろん別の消費者価値やベネフィットのはしごがあり、逆に「優越感」「女王気分」「良い母親」という消費者価値にも別のはしごがある。1つの商品・銘柄は複数のはしごを持つが、それを4つのレベルに整頓し、系統図としてまとめあげるのがラダリングであると言える。

たとえば、「航空会社のビジネスクラス」は「座席が広い」という商品属性から3つの客観的ベネフィットと3つの主観的ベネフィット、そして1つの消費者価値を導いているし、「ビジネスクラス」にはこのほかに「専用カウンターがある」「団体客がいない」「乗務員の応対が行き届いている」などの商品属性から始まるラダーも挙げられている。こうしたラダーの系統図がラダリング・システムのアウト・プットなのである。

ラダリングのシステム

では、ラグリングとはどのようなリサーチと分析をすることによって得られるのか。その仕組はノウハウにかかわるところがあり、必ずしも十分に説明してもらえなかったが、大雑把に言うなら、ラダリング・メソッド-タイプ1のシステムは「ラダー発見のための調査」と「最適ラダー決定のための調査」によって構成されている。

「ラダー発見のための調査」は、まず、電通Y&Rが開発したオリジナルな調査票を用いたデプスインタビューが、専門の調査員によって行なわれる。サンプル数は該当の商品やブランド、それに競合状況によって異なってくるが、おおよそ30人から200人くらい。「ラダーを発見」することが目的であり、結果は定性的に分析される。定量的な調査が必要とされるノ場合は「最適ラダー決定のための調査」を行ない、ラダーの評価を行なうことになる。

デプスインタビューは「商品の特徴」「商品の持つ利点」「商品から消費者が受ける利益」「商品に対して消費者が感じる価値観」の4つのレベルの質問を繰り返すことによって行なわれるが、この質問のテクニックが、ラダリング・システムの1つのノウハウであるという。

質問は大きぐ商品レベルとブランドレべノレの2つの側面から行なわれる。たとえば、ある航空会社のビジネスクラスの場合、ビジネスクラスという商品レベルでの質問と、競合関係を持つ航空会社を相対的に比較した場合の質問とがある。

そして、デプスインタビューによって得られた回答を、ラダーとして選択する作業が次に行なわれることになるが、この作業はリサーチャーだけではなく、プランナー、クリエイターが共同して行ない、ユニークなラダーや共通性の高いものが選び出されることになる。

ここまでがステップ1だが、こうしたラダリングは、人と商品とを関係づける方法としてアメリカで開発されたもの。
電通Y&Rはこれを広告表現の開発のための手法として改良を加えている。

改良の最大の特徴は、1つは、定量調査にも使えるステップ1用のオリジナル調査票を活用すること。もう1つはステップ2で、ステップ1で抽出されたラダーを定量化するために、「最適ラダー決定のための調査」が行なわれることである。そして、この定量的調査の結果、競合関係や自社ブランドの優位性、ユニーク性といった観点からの戦略的な判断を加味して、訴求点となる最適ラダーを最終的に決定する。

クリエイティブと訴求レベル

このラダリングはおもに広告のクリエイティブのために行なわれる。もちろんクリエイターたちの創造力を制約するものではなく、「発想のスプリングボードとなるもの」をつくり出すのが目的であるという。

広告の表現を制作する側にとって、ラダリングとは商品・銘柄の地図と言っていいのかもしれない。広告で「スイートスポットが2倍」という商品属性を訴求するのか、それとも「100を切る」という主観的ベネフィットを訴求するのか、あるいは「優越感にひたれる」を伝えるのかは、ラグリングだけからは判断できないし、それをどう表現するかは、もっぱらクリエイターの領域となるからである。

しかし、たぶん、いままではマーケティングの側は、こうした4つのレベルの地図をつくらず、あいまいなまま情報を提供するか、4つのレベルを区別せずにそれぞれに「消費者の欲求」ということで数値を与え、異なったレベルのものを同一次元に置き換え、数量的な優位順位を与えてきたことが多かったと思う。方位のない地図か、旅の行き先の人気ランキングを情報しがちであり、正確な地図づくりは怠ってきたと考えていいのかもしれない。そして、たぶん、正確な地図が与えられるほど、地図はさまざまな旅のシミュレーションを可能にしてくれるのである。ラダリングとはそうした地図づくりであると言っていい。

ただ、広告表現に使われているラグリングの4つのレベルは、商品によって特徴があるという。たとえば、高級乗車だと、主観的ベネフィットや価値観という人間に近い部分が訴求され、医療品は客観的ベネフィットが訴求されることが多い。そして、このラダリングは、商品よりも人間に近いレベル、消費者価値や主観的ベネフィットを抽出することに有効な手法であり、低価格のものよりは、高価値のもの、実用品よりは噂好晶・ファッション商品に適しているという。

自我関与の高い商品ほどターゲットの価値観にフィットすることが重要であり、価値の訴求が重要な意味を持つことになるからである。

しかしラグリングの特徴は、何よりも商品属性から消費者価値につながる4つのレベルの関連性である。たとえば、広告の表現が商品の属性とは一見かけはなれた、いわゆる「モノ離れ」の表現になっていても、そこに商品属性につながるラダーが背景として存在するなら、モノ離れした表現は広告を見る者のココロの中に、モノにつながるラダーを生み出せる表現力を持つかもしれない。そうした商品属性、客観的ベネフィット、主観的ベネフィット、そして消費者価値を結ぶ1本の糸の存在が、表現力とメッセージを持つクリエイティブをつくり出すと言うべきなのだろう。

ラダリングの可能性

ところで、ラダリング・システムは広告のクリエイティブの開発をおもな目的とした手法だが、この手法は広告だけでなく、さまざまな領域に適用できる。たとえば、その1つとして商品開発にはどうだろうか。

広告クリエイティブの場合はまず商品があり、商品属性から出発し、客観的ベネフィット、主観的ベネフィット、そして消費者価値にたどりつくという手法がとられるが、消費者があるカテゴリーの商品に求める客観的ベネフィットを導き出し、そうしたベネフィットを商品属性とする商品の開発が提案されるという手順が考えられる。

もう10年近く前のことだが、ルームエアコンのコンセプトを提案するために、机に向かって四苦八苦していたら、隣の席の女の子が「しあわせエアコンですよ」と言った。

こちらは「音が静かで勉強に集中できる子供部屋のエアコン」など、モノやイエにべったりくっついたエアコンを考えていたので、「しあわせなのはおまえだよ」と言い返しただけだったが、「しあわせな気分になる」という消費者価値から出発し、しあわせの気分をつくる主観的ベネフィットは何かを考え、エアコンにたどりつく

ことができたのかもしれない。1人住まいの家に帰ると部屋を温めたり、冷やしてくれていて、「お帰りなさい」と迎えてくれるエアコンで……。

こうした「しあわせ」とエアコンをつなぐラダーを発見し、「しあわせエアコン」の商品属性を兄いだすことが、この手法なら可能だろう。

教科書的な言い方になるが、マーケティングは音が静かなエアコンを提案し、クリエイティブはしあわせを表現した広告を展開し、両者は何の接点をも持たないことがよくある。

だから、こうした商品開発寄りの商品属性と、クリエイティブが表現する消費者価値をつなぐラダーの発見が、商品開発にも、広告表現にも必要とされているのである。

例えば、洗濯機で「音が静かな」という製品属性は、「音が外に漏れないので、隣を気にしないで深夜に洗濯できる」ことや「音が静かだから洗濯機の横でケータイでおしゃべりできる」などのいつくかのベネフィットに分化する。このうち「深夜に洗濯できる」というべネフィットは、音が静かな洗濯機を使って隣に気を配る「良識ある人」という価値、あるいは、深夜洗濯せざるをえない「夜遅くまで働いているキャリアな女性」という価値に結びつくかもしれない。

音が静かな洗濯を使った深夜の洗濯シーン、シーンとベネフィットは同じでも消費者価値は違う。良識ある主婦か、バリバリ働くキャリア女性か、どちらの価値を選ぶのか、それによってターゲットも広告表現も大きく変わる。

Benefit7 ブランドは価値でつくる

事例 「男らしさ」価値 マールボロ

製品属性ではなく、ベネフィットでもなく、ただ価値だけで存在しているブランドにマールボロがある。マールボロの価値をつくりあげたのは、もう50年間近く変わらずに続けているカーボーイの広告である。アメリカの白人たちの「男らしさ」のシンボルであるカーボーイは、西部劇映画ではなく広告によって世界のすみずにまで浸透し、グローバルな「男らしさ」のコードになり、マールボロというブランドをつくりあげている。

マールボロが「男らしさ」を求めたのは、女性的イメージを払拭するためだった。1954年、マールボロはフィリップ・モリスのフィルター付きたばことして発売される。両切りたばこがあたり前の時期、フィルター付きであるためターゲットを女性にしていた。フィルター付きたばこは「男らしくない」という当時のひとびとのイメージに従ったわけである。だが、販売は不振。当時女性の喫煙者はまだ少ない。ターゲットはやはり男性にしたいが、そのためにはフィルター付きたばこは「男らしくない」というイメージの障害になった。

「男らしさ」を求めて、1957年、マールボロ・マンの広告が始まる。提案したのはレオ・バーネットである。当初、さまざまな男らしい男性が登場したが、男性的なイメージの強さからカーボーイが生き残り、1964年には有名な「Come to where Marlboro Country」のコピーが使われるようになる。

完成度を高め様式化してきた1970年代の広告をみると、広告に表現されるカーボーイはだいたい一人、若者ではなくある程度の年齢の男性である。メルリリンチの広告が群れから離れた孤高の牛にターゲットである投資家を重ね合わせたように、群れていない一人の男、若者よりも経験をつんだ男に「男らしさ」を見出していることがわかる。

マールボロは、半世紀という長い時間同じカーボーイで表現し続け、地域や国に順応することなくグローバルにカーボーイで「男らしさ」を表現し続ける。その継続性と一貫性がブランドの価値をゆるぎないものにした。

Benefit8 ブランドになったノーブランド

事例 安さの理由がブランドをつくった 無印良品

べネフィットは「安いこと」、では「安いこと」の消費者価値は何か。安いから飽きたら「捨てやすい」、安いから「家計が楽」、「無駄がなくて合理的」、「余計がなくて清貧的」など、「安いこと」につながる価値はいくつかある。

「安い」ことの価値は、「節電」の価値に似ている。人が節電タイプの電気製品を選ぶ理由の背後には、「電気代の節約をして家計をらくにしたい」、「親から伝わった無駄をしない生活をしたい」、「エコロジーな生活をしたい」などの異なった価値があり、どの価値を「節電」に求めるかによって、その人の価値観は大きく違ってくる。

ベネフィットは「安さ」だが、ベネフィットの背後にある価値をきちっと追求して登場したのが無印良品である。無印良品の価値は、飾らない実質性、とでもいったらいいのだろうか。立ち上げ時にデザインを手がけた田中一光は「爛熟した浪費社会のなかで、ひときわ高い精神性」(スミス『無印良品白書』)と述べている。

もともと無印良品は「安さ」をベネフィットにしたプライベート・ブランドであった。無印良品は西友ストアのプライベート・ブランドとして出発する。プライベート・ブランドとは、メーカー・ブランド(ふつうはナショナル・ブランドと言っている)に対して、流通がメーカー・ブランド名を消去し、ブランドとはいえない名前をつけて商品を販売するもので、ノー・ブランドとも言っていた。当時のプライベート・ブランドは、醤油やマヨネーズなど必需性が高い消耗品が中心で、製造はナショナル・ブランドのメーカーが行うので、製品はほぼ同じだが価格は安い。中身は同じだが価格は安い商品で、流通のバイイング・パワーを背景したものだった。

こうしたなかで無印良品は実質的な安さを追求した商品を揃えて登場する。包装や工程を見直し、余計と思われるものを切り捨てることで、安い商品を作り出したのである。頭や尻尾の部分も使ったシャケの缶詰や割れたしいたけなど、安さの理由はわかりやすく、合理的で説得性があった。

「安さ」をベネフィットとした無印良品が、「安さ」とは異なった価値をもつブランドに転化するのは早かった。「安さ」の背後にある実質性基準から、色彩や模様が過剰なパッケージをシンプルにすると、そこにストイックで飾らないという価値が視覚的に浮き上がってくる。このデザインや色がブランドづくりを助けたことも無視できない。

いずれにしても、安さの理由が「安さ」というベネフィットから遊離し、価値として自立する。安さの理由が「飾らない精神性の高い生活」という消費者価値になり、無印良品のブランド価値になったのである。

登場の1980年、翌1981年の無印良品の売上げの過半は食品だったが、3年目から生活雑貨が急増する。安さではなく、飾らない実質性という価値基準に合う商品を求めていたら雑貨が中心になり、衣服への拡大していくことになる。価値は商品を限定しない。ベネフィットはブランドになりにくいが、価値はブランドになりやすい。

Benefit9 ベネフィットの高度化

事例 洗剤と紙おむつにみるベネフィットの高度化

ベネフィットはリアルベネフィットから始まり、使用簡便ベネフィットに移り、感覚的ベネフィットの段階を経て、心理的ベネフィットに至るというベネフィットの高度化のパターンに注目しているが近藤真寿男である。ここでは近藤真寿男『成功する商品開発』(BMFT出版)を引用しながら、ベネフィットの高度化を洗剤と紙おむつを事例に紹介する。

どんな商品カテゴリーでも、登場してくる時は消費者が実感できるリアルなベネフィットである。衣料用洗剤なら「洗浄力がある」、乳幼児用紙おむつなら「漏れない」ことが、消費者がリアルに実感するリアルベネフィットだった。衣料用洗剤で最初の大きなブランドになったのは、花王のザブである。ザブはどんなひどい汚れでも、きれいに洗い落としてしまう洗浄力の強さをベネフィットとしていた。一方、日本で最初に販売された乳幼児用紙おむつの商品はP&Gのパンパースであったが、すぐに漏れた。この紙おむつの市場に参入したユニ・チャームはもっと漏れないものをつくる。ムーニーである。ムーニーはパンパースからほとんど完全にシェアを奪っていき、すぐに圧倒的なシェアのトップブランドになった。

基本機能ベネフィットの次に求められるのは、「使いやすい」「すぐ使える」「簡単にできる」などの使用簡便性ベネフィットである。衣料用洗剤では「すすぎ洗いが簡単」を謳ったライオン油脂のハイトップ、乳幼児用紙おむつでは「赤ちゃんに着けるのが簡単な」をベネフィットにしたユニ・チャームのムーニーマンがトップブランドになる。

使用簡便性ベネフィットも、しばらくするとブランド間の差が失われ始め、どれも同じようになる。こうした中で、消費者が次に求めるのが、色や香りなどの感覚で感じるベネフィットである。見た目や触った感じ、香りなどによって、「キレイ」「好き」「感じがいい」などの感覚的ベネフィットを求めるようになる。衣料用洗剤では「白さと香り」の花王のニュービーズが、乳幼児用紙おむつでは「優しい肌触り」をベネフィットにしたブランドとして、花王のメリーズや、P&Gのパンパースが買われることになる。

感覚的ベネフィットの次にくるのが心理的ベネフィットの段階である。心理的ベネフィットは、消費者に「面白い」「楽しい」「かわいい」「幸せ」という気分の満足を与える。この心理的ベネフィットが求められるようになるのは、消費者ベネフィット高度化パターンの最後の段階である。衣料用洗剤では「色が変わる楽しさ」や「幸せの香り」がベネフィットになり、乳幼児用紙おむつではディズニーのキャラクターなどを使った、かわいい、あるいは楽しいイメージをベネフィットにするブランドが買われることになる。

リアルベネフィットから始まり、使用簡便ベネフィット、感覚的ベネフィットの段階を経て心理的ベネフィットに至る高度化したベネフィットが、技術革新によって最初のリアルベネフィットに戻る。輪廻するのである。衣料用洗剤では、バイオテクノロジーを利用した花王のアタックの登場であった。