おいしいを感じる言葉
Sizzle Word 2024

おいしいモノを食べた時、おいしさをどう感覚し、
どういう言葉にして知覚し、記憶しているのでしょうか。
いま、どのようなおいしさを表現する言葉が
使われているのでしょうか。

「おいしそう」「食べたい」「飲みたい」という欲求を
喚起する言葉、おいしかった感覚を覚えておく言葉、
おいしい感覚を表現する言葉を
“シズルワード”と 呼んできました。

“シズルワード”には､「もちもち」「ジューシー」
「とろける」「濃厚」「うま味のある」「贅沢な」
「揚げたて」「焼きたて」など、 数多くの言葉があります。

2003年から継続的に調査を行ってきました。
シズルワードの現在の姿とその変化を知っていただくために、
『おいしいを感じる言葉 SIZZLE WORD 2024』
の調査結果の一部をご紹介します。

“シズルワード”には
食に関わる修飾語で、単語や簡単な字句のことです。
「もちもち」「ジューシー」「とろける」「濃厚」
「うま味のある」「贅沢な」「揚げたて」など、
数多くの言葉があります。

シズルワードは大きく4つの領域にわけています。

• 味覚系：味覚・嗅覚に関わるワード
• 食感系：触覚・聴覚に関わるワード
• 情報系：食材・調理・製法・流儀に関わるワード
• 感情系：情緒・気分・エモーションに関わるワード

味覚系、食感系、情報系の3領域で2003年から調査してきました。そして、2020年から感情系を加えた4領域で行っています。

味覚系の1位は「濃厚な」です。

続いて2位は「コクうま」、3位は「うま味のある」、
４位は「コクのある」、5位は「極うま」。
〈うま〉〈コク〉を使ったワードが2位～5位を占めています。

6位は「やみつきになる」、12位は「クセになる」。
感覚により、脳によって欲求がつくられている言葉です。

7位は「コク深い」、8位は「味わい深い」、
9位は「深みのある」です。
“深い”を使ったワードが並びます。

10位11位は「風味豊かな」「香ばしい」。
“香り”“匂い”など嗅覚に関わる言葉です。

味覚系シズルワード　トップ20

「ジューシー」「もちもち」「サクサク」
が食材系のトップ3

食感系の1位は「ジューシー」です。
「ジューシー」は肉汁が溢れるなど、
汁や液体の動きを楽しむ感覚で、食感の圧倒的な1位です。
〈ジュ〉という音のつながりから、11位「じゅわっと」、
20位「じゅわー」とも関連しています。

2位は「もちもち」、4位は「もっちり」、8位は「もちっと」、
もち系擬態語がトップ10に入っています。

3位は「サクサク」、7位は「サクっと」はサク系擬音語です。
〈サク〉の複合語、「サクふわ」も17位に入っています。

とろ系擬態語を使ったワードも、5位は「とろける」、
9位は「とろーり」、10位「ふわとろ」、
19位「とろとろ」と上位に入っています。

食感系の中心であるオノマトペは、
感覚をそのまま言葉にしたもので、
擬音語と擬態語に分けられます。
オノマトペでは、上記の“もち” “サク” “とろ”の他に、
10位「ふわとろ」、17位「サクふわ」のふわ系擬態語、
16位「カリッと」のカリ系擬音語も上位です。

オノマトペ以外では、身体の部位を使ったワードもあります。
“口”を使った「口どけのよい」が12位、
“コシ”を使った「コシのある」が15位とトップ20にランクインです。

食感系シズルワード　トップ20

「贅沢な」「揚げたて」「焼きたて」
が情報系のトップ3

素材・製法・流儀など、
食材や調理・加工に関わる言葉が“情報系”です。

情報系の1位は「贅沢な」です。
料理の量感や豊富さを表した〈沢盛〉ワードで、
同じく「具だくさん」も6位でトップ10入りです。

2位3位は料理の作りたて・調理したてを意味する
「揚げたて」「焼きたて」が入ります。
同じ“たて”系では、10位に「炊きたて」、16位に「出来立て」があります。

4位「絶品」、5位「本格的」、7位「プレミアム」。
食品・料理の作り方や質などを表す”流儀”ワードです。

続いて、食材の鮮度を表す「新鮮な」が9位、「旬」が15位に入ります。

情報系シズルワード　トップ20

「幸せの」「満ち足りた」「気分が高まる」
が感情系のトップ3

感覚ではなく感情。
“おいしい” を食べることでえられる情緒や気分です。
おいしいは「快」、まずいは「不快」。
おいしい飲食は「快」を通じて、気持ち、気分や情緒を動かします。

感情系の1位は「幸せの」です。
おいしい感覚をそのまま感情にすると「幸せ」になります。
2位「至福の」、5位「満ち足りた」も、
大きく分けると同じような“幸せ”系の感情です。

3位は「ご褒美の」。
”快”によってインスパイアされる感情、アップされる気持ちを表していて、
4位「元気が出る」、6位「気分があがる」、7位「気分が高まる」、
8位「うれしい」なども同じ感情に属しています。

これらはアップ系とは反対に、感情を落ち着かせ、鎮めることには、
9位「癒される」、12位「ほっとする」、13位「心地よい」、
15位「ほっこり」などがあります。
ただし鎮め系の感情は、アップ系の感情よりも下位となっています。

その他に、感情の切り替え、「リラックスする」は10位、
「リフレッシュする」は11位です。

感情系シズルワード　トップ20

ここでは2014年～2024年までの
10年間の時系分析から
トレンドの変化を見ていきます。

〈濃〉〈コク〉〈うま〉は派生語が進展継続、
「あっさり」「さっぱり」に復活の兆し

味覚系の1位は「濃厚な」。
「濃厚な」はこの数年トップグループを維持しているものの、
味覚系の”濃厚/リッチ”トレンドが進展するにしたがい、
徐々にピークアウトの兆しです。

一方で、16位「特濃」など“濃”を使った”多濃語”が進展。
13位「リッチな」、20位「しみ込んだ」など、
味の濃さや深さを表現する言葉も下位から台頭していて、
味覚の濃厚トレンドは今後も継続しそうです。

続く2位は「コクうま」です。
「コクうま」は2014年7位、2019年4位と順位アップ、
今年は2位に入りました。

〈うま〉〈コク〉では、基本ワード「うま味のある」
「コクのある」も3位4位に入っていますが、
派生語「コクうま」のほうが
これら基本ワードの順位を上回っています。

〈うま〉〈コク〉複合語では、「極うま」も2014年の11位から
今年は5位と大きく順位アップ。
〈濃〉〈うま〉〈コク〉は、多様化が大きく進んでいます。

また味覚の濃厚/リッチ化が進む一方、
「あっさり」「さっぱり」の”淡柔”系は、
長期的なダウントレンドが継続していましたが、
今年は下位のほうで反転、復活の兆しを見せています。

味覚系のランキングの変化：2014～2024年

「ジューシー」「もちもち」が2トップ継続
「サクサク」「サクっと」がアップ
アップする擬音語、清音から濁音へ

2024年の1位は「ジューシー」、2位は「もちもち」。
「ジューシー」「もちもち」は食感系を代表する言葉であり、
この数年は食感系のトップを争っています。

3位は擬音語「サクサク」です。
「サクサク」は2014年は6位、2019年に4位、
今年は「もっちり」を抜いて、3位にアップしました。

同じサク系擬音語では、7位「サクっと」、
17位「サクふわ」も下位から順位アップしています。

嚙んだ時の軽快な食感を表すオノマトペがアップトレンドとなっていて、
「カリッと」「パリッと」などカリ系・パリ系擬音語も下位からアップ。
またさらに下位からは、「ザクっと」「ガリっと」などの
濁音擬音語がアップしてきています。

擬音語がアップする一方で、順位ダウンをしているのが、
擬態語ふわ系・とろ系です。

ふわ系では、「ふわふわ」が2014年13位から2024年は21位へ、
「ふわとろ」「ふっくら」も2018年をピークに順位ダウン。

とろ系では、「とろける」が2014年4位から2024年5位へ、
「とろーり」が2014年7位から2024年9位へと、
徐々に順位を落としていて、
軽くて柔らかい感覚を表す擬態語のダウントレンドが続いています。

食感系のランキングの変化：2014～2024年

「贅沢な」がトップ
「本格的」「上質な」がアップ
「産地直送」「天然の」はダウン

情報系の1位は「贅沢な」。
「贅沢な」は情報系の中で大きく順位アップをしてきた言葉で、
2014年12位から2019年は2位に大きくアップ、今年は1位になりました。

2位3位は「揚げたて」「焼きたて」です。
“調理したて”を表すこの2ワードは2014年以降、
トップ3を維持していて、出来立てのおいしさ価値を表しています。

その他に大きく順位アップをしたのは製法などの”流儀”を表す言葉で、
「絶品」「本格的」「本場の」など。
また位階の上位を表す言葉でも、
「一流の」「上質な」がアップしています。

一方、大きく順位ダウンをしているのは
「産地直送」「厳選素材」「天然の」。
「産地直送」は2014年7位から2024年31位へ、
「厳選素材」は2014年11位から2024年18位へ、
「天然の」 2014年12位から2024年23位へと、
大きく順位を落としています。
食材の自然性への意識は弱くなっていると言えるでしょう。

情報系のランキングの変化：2014～2024年